不思議に不思議な彼女と僕
「失恋を乗り越えて、更に強くなるのです若者よ!」
「……うるさいですよ。急になんなんですか」
胸当てのついたエプロンに、白いブラウスと紺色の膝下丈スカート。
今日もいつもと変わらない飾り気のない服装で、その人は店にいた。
大量の便箋と封筒に囲まれた、この不思議な店にいた。
「過去の思い出、それも失恋の思い出に浸っているように見えましたので。僭越ながら、わたしから素敵なアドバイスを」
「どこが素敵なんですか。それに、ひとが浸ってる思い出を、勝手に失恋だって決めつけないでください」
言い返した言葉に、彼女はただふふっと笑う。
それが何だか、全てお見通しだと言われているようで気に食わない。
それに、そんな風に得意げにお姉さんぶられると、時々誰かと重なって見えてしまうから、できればやめて欲しい。
パタパタとハタキをかけながら遠ざかっていく後ろ姿から視線を外し、代わりに店の中をぐるりと見渡す。
この店には、とにかく便箋と封筒が大量に置いてある。
まるで写真立てのような、でも普通の写真立てより大きなB5のノートくらいの大きさのアクリル板で挟まれたそれらは、後ろから斜めに突き出した二本の棒が脚になって自立することで、棚に一つ一つディスプレイされている。