君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜
桜の頃

「ってか、何で俺から逃げてんの?」




「きゆちゃん、田中先生はいつ頃退院できそうなの?」


足立きゆが地元の病院に勤め出してすぐ、この病院の院長先生が持病の心臓病を悪化させ、となりの島の大きな病院に入院した。

元々、小さな島にある小さな病院だ。
人口の減少に伴い患者数も徐々に減り、そのため今では、この病院も高齢の院長先生と看護師の奥様と二人で細々と営んでいた。


「まだどれくらいかかるか分からないみたい。

私は看護師だから院長先生の代わりはできないけど、とりあえず病院は開けててほしいって先生が言うから。

今の仕事は島のおじいちゃん、おばあちゃんの相談相手かな」


きゆが笑ってそう言うと、2軒先の薬局に勤める峰子がため息をついた。


「でも、きゆちゃん、何があって島に帰って来ちゃったの?

きゆちゃんの年の女の子が帰ってくるって珍しいからさ」


この小さな島に小学校と中学校は一校しかない。
子どもの数は減少し、もちろん、若者は出て行ったきり帰ってくることはほとんどなかった。



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