君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜
その3日後、流人は東京に帰った。
来た時と同じように、飛行機じゃなくフェリーを使って。
きゆは港で流人を見送りながら、この先に、不穏な嵐が来ないことをずっと心で祈っていた。
流人の両親と打ち解けた話ができますように…
どうか二人の結婚を認めてくれますように…
きゆは流人が心配しないように明るく手を振ると、きゆの気持ちを見透かしているのか、流人は苦笑いを浮かべ更に大きく手を振ってくれた。
流ちゃん、無事に帰ってきてね……
それからの日々は、きゆにとって全く色のないものだった。流人のいないこの島は、まるでモノクロのようだ。
でも、きゆは、気丈に元気に日常を過ごすだけだった。もうすぐ27歳になる大の大人が、恋人とほんのちょっと離れるだけでめそめそすること自体あり得ない。
きゆは沈みそうになる自分の心を奮い立たせて仕事に励んだ。
今日は老健施設の訪問診療の日だ。
でも、流人がいないという事で、施設の方が、今日は相談日にしてくれた。
きゆは、施設で待ってくれているお年寄りのために、少しだけ早く病院を出た。
施設に着くと、正面玄関の脇に置かれているベンチに瑛太が座っていた。