君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜
流人はそれ以上の事は何も話さなかった。
美味しそうにケーキを頬張っている。
「流ちゃん…
院長先生は私の事何て言ってた?…
きっと、もう、顔も見たくないって思ってるかもね……」
きゆは、やはり、傷ついた心はどうしても隠せなかった。
あの穏やかで優しい院長先生の顔が苦痛で歪んでいる姿が脳裏に浮かぶ。
きっと恩を仇で返されたと思っているに違いないって、こうなる事なんていくらでも想像していたのに、でも、やっぱり、現実を目の当たりに突きつけられると、きゆの心は悲鳴をあげてしまった。
…院長先生、ごめんなさい、ごめんなさい……
きゆのすすり泣く声は、静かな病院に悲しく響いた。
「きゆ、泣くな。
俺がどんな決断をしてもついてきてくれるって約束しただろ?
ま、まだ、そんなに急いで決断は下さないけど、でもどう転んだって、きゆは俺を信じてついてきてくれればいいんだ」
「決断って?…」
「それは、まだ言わない…」
流人はきゆにフォークでつついたケーキを差し出し、ニコッと作り笑いをする。
「流ちゃん……
何もかもを捨ててこの島に残るなんて言ったら、絶対許さないからね…
そんな事をしてもらってまで結婚なんてしたくないし、そんな事を考える流ちゃんの事は、きっと多分、愛せないから…」
流人は手に持っているケーキを自分の口に放り込み、切なそうに微笑んだ。
うんともすんとも、分かったとも、何も言わずに…