君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜
弥生の頃
「俺がいなくても不安になるなよ」
一月の三が日が過ぎた頃、田中医院の院長夫妻が久しぶりに我が家へ帰って来た。
きゆと流人は、年末はこの病院の大掃除に明け暮れた。
特に、流人が寝泊まりに使っていた院長室は、二人で念入りに床も窓も壁も全てを磨き上げた。
年明けは六日からの診療始めだったので、その日は朝から田中院長は病院に来て院長室でくつろいでいる。
実は、年末に、流人が東京へ帰った時に、二人は院長の娘夫婦の家で顔を合わせていた。
流人は院長の体の具合を聞いたり、これから先の田中医院をどうするべきかという院長の相談に乗ったりもした。
「流人君のような若い先生達は、あんな過疎の進んだ、ましてや離島には誰も来たがらない。
かといって、僕の都合で病院を閉めるわけにもいかない。
小さな島だけど、小さな島だからこそ、病院の存在はかけがえのないものなんだ」
流人は大きく頷いた。
それは、誰よりも自分が一番分かっている。
お年寄りだけじゃない、小さな子供を持つ若い夫婦だって安心できる場所があるからこそ、子育てに専念できる。
「院長先生、病院は閉めないでくださいね…」
院長は目がなくなるほど笑顔を浮かべ、流人を見つめた。