君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜
「じゃ、流ちゃん、今から、流ちゃんの住む所に行こうか」
きゆは役場の人事部の三上から、流人が住まいに使う住宅の鍵を預かっていた。
村営住宅の奥の方にあると聞いているが、きゆもはっきりとその場所を認識しているわけではない。
車に乗り込むと、きゆは携帯のナビをセットした。
「なんか役場の人の話では、5年ほど前から積極的に医師募集の広告を出してたみたい。
そのために、急に医者の家族が来てもいいように、豪華な住宅を一軒作ったんだって。
流ちゃんが住むの第一号らしいよ」
「ふ~~ん」
流人はきゆがセットした携帯のナビを手に取って見ていた。
「その俺が住むだろう住宅の周りってなんもないんだけど……
できれば、コンビニとかが近いところがよかったな…」
きゆは流人から携帯を取り上げ、笑いながらこう言い返した。
「流ちゃん、耳を澄ましてよく聞いてね。
この島にはコンビニなんて一軒もないから」
「マジ??」
「ほんとう」
きゆは住宅に向かって車を走らせた。
「え、じゃ、俺、どうやって生活していけばいいの?」
「流ちゃん、それが田舎に住むっていうことだよ」
きゆは窓を全開にして、青い空を仰ぎながらそう答えた。