君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜
「じゃ、お礼の挨拶みたいなキスならしてあげる」
流人は寝転がったままで、嬉しそうに目を閉じきゆのキスを待っている。
「ちゃんと、起きて。
寝た状態じゃ、挨拶のキスなんてできないよ」
流人は口角を上げたご機嫌な顔で、でも面倒くさそうなポーズを取りながら体を起こした。
「たくさんのバラの花束、ありがとう…
すごく、嬉しかった…」
きゆはそう言って、目を閉じている流人に軽くくちびるがかする程度のキスをした。
「え? 終わり??」
きゆが可笑しくてクスっと笑うと同時に、流人に強く体を引き寄せられた。
「きゆ、そんなのキスじゃないよ」
そうやって、流人のしたいように、私は体を預けてしまう…
久しぶりに流人の腕に抱かれ、懐かしく当たり前のようなキスをする。
それは、幸せで、でも苦しくて、恋い焦がれていた優しいキス……
「流ちゃん、もう、やめて…」
きゆの目には涙が溢れていた。
あの時にきゆが受けた傷は、まだかさぶたにもならないまま疼いている。
“流人先生は、医者のお嫁さんをもらうらしいよ”
院長秘書に教えてもらったあの日、病院を辞める決心をした。
誕生日の浮気より、きっとこの言葉が私を縛り付けている……