君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜
嵐の頃
「毎日、俺に、キスしてくれる??」
気がつくともう7月に入っていた。
4月5月は学校や職場の健康診断が多く、診察自体はそれほど忙しくなかった。
流人は専門外の科の勉強に励むと同時に、去年から取り組んでいるボストンの学会に提出する論文の期限が6月いっぱいということで、何かと毎日を忙しく過ごした。
きゆも医療事務の通信講座の自宅受験を6月に控えて、役場の保健課の人に教えてもらいながら、やはり勉強に励んでいた。
その二人にとっての慌ただしい6月が過ぎ、7月に入ると少しだけ生活にも仕事にも余裕が出ていた。
「きゆ、今日、うちに来ない?」
最近、流人は人里離れた自宅で時間を過ごすことが多くなっている。
来た頃は、静けさと暗闇が怖く長い時間を一人で過ごすことができなかったが、今では、それでも泊まる事はしないけれど、休日の昼間にあの豪華な家でくつろぐことの楽しみを覚えた。
「また、俺に料理を教えてよ」
以前、暇さえあれば家に籠って論文を仕上げていた流人に、きゆはご飯の炊き方を教えてあげた。
「料理って…
お米を炊くのって料理なのかな?…」
「でも俺は、ご飯の作り方なんて知らなかったから、すごく役に立った」
きゆは伸びてきた前髪をちょんまげのように結んでいる流人を見て、堪えきれずに笑った。