君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜
「流ちゃん、髪切ってあげようか?」
流人はこの島に来てから一度も髪を切っていなかった。
きゆに教えてもらった散髪屋は70代のおじいさんが営んでいると聞き、しり込みしていたからだ。
「きゆが? 切れんの??」
診察室の椅子に座っている流人の髪を、きゆは優しく撫でて触った。
「こんな小さな島で育つと、一通り何でもできるようになるの。
だって、私、二人いる兄達の髪を二人が中学を卒業するまで切ってたんだから」
流人はきゆに疑わしい眼差しを向けている。
「その髪型は坊主でした、じゃないよな?」
きゆはまた笑った。
「坊主じゃないよ。
普通の男の子がする髪形。
分かった…
じゃ、前髪だけ切ってあげる」
流人はしぶしぶ頷いた。
どっちみち、この前髪の限界は近づいている。
「じゃ、今日は土曜日だから、午前の診察が終わったら、俺の家に行こう」
7月に入り、梅雨の季節は終わったようだ。
今日は、夏を思わせる雲一つない濃い青色の空が広がっている。
流人は、きゆと大切な話がしたいと思っていた。
去年のきゆの誕生日の言い訳をしたい。
あの時、俺に何があって、何を考えていたか…
この話をちゃんとしない限り、俺達は前に進めないんだ……