君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜
「流ちゃん、ちゃんと、掃除してるんだ?」
流人の家に久しぶりに訪れたきゆは、綺麗に片付いている家の中を見て驚いてそう言った。
「いや、それが、たまに誰かが来て掃除しくれてるんだ…
役場の人かな?
本当に至れり尽くせりで気が重いよ」
きゆは海を眺める大きな窓を開け放った。
この間ここに来た時は雨が降っていて、ここから見える空も海も灰色だったから。
でも、今日の窓から見える風景は、素晴らしくため息がこぼれるほどだ。
高台から見下ろす海と空の微妙な青色違いのグラデーションが、目を見張るほど美しかった。
きゆは外から入ってくる柔らかい海風に体を預けていた。
流人は電気ポットに水を入れて、お湯をグツグツ沸かしている。
「流ちゃん、お茶を飲む前にちゃちゃっと切っちゃおうか?」
「え~~、マジ?」
「マジだよ」
きゆは洗面台からはさみと剃刀とブラシを持って来た。
床に新聞紙を敷き詰めて椅子を置き、そこに流人を座らせる。
「ちびまる子ちゃんみたいなパッツンはやめてくれよ…」
「大丈夫だって」
きゆは自分の顔を流人の顔の位置まで下げる。
流人の頬にきゆの息が何度もかかった。
剃刀とはさみの音が、流人の耳元に心地よさをもたらしてくれる。
流人はきゆの口もとをずっと見ていた。