君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜
きゆは流人の前に丸椅子を持ってきてそれに座り、一心不乱に流人の前髪を切った。
きゆの息遣いは一定のリズムを取り、流人の口元に柔らかく温かくかかる。
流人は拷問だと思った。
毎日毎晩きゆを抱くことしか考えていない流人にとって、今のこの時間は、自分の煩悩との闘いだ。
きゆとキスをしたのは四月の車の中以来だし、セックスに関して言えばもう化石に近い状態だ。
……きゆを抱きたい、きゆを抱きたい。
流人の頭の中はその事しか考えられなくなっていた。
「じゃじゃじゃじゃーん」
きゆは流人の葛藤などつゆ知らず、手鏡を流人の顔の前に持って来た。
「ほら、カッコよくなったでしょ?
横の髪も後ろの髪もちょっとだけ切ったんだけど、良かった?」
流人はため息をつきながら、やるせない笑顔を浮かべ微笑んだ。
「ありがとう……
これで、ちょんまげをしなくて済むよ」
「あ、流ちゃん、動かないで」
きゆは流人の瞼についている髪の毛をティシュで優しく拭き取った。
きゆの息遣いをもう一度、口元に感じる。
流人は有無も言わさずきゆの腰をつかみ、きゆの丸椅子を自分の椅子に引き寄せた。