君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜



「流ちゃん、まず、お茶にしようよ…」


きゆは丸めた新聞紙をキッチンのゴミ箱に入れ、自分の分のコーヒーを持ってソファに腰かけた。
二人は黙ったままコーヒーを飲んだ。
あの日の出来事は、きゆにとっては思い出したくない過去であり、あの夜で自分の中の何かが壊れてしまったのも確かだった。


「きゆ、ごめん…
どういう事情があったにせよ、きゆを傷つけてしまったのは間違いなくて、まずはちゃんとその事を謝りたいと思ってた。

本当に、ごめん……」


流人はきゆに切ってもらったさっぱりした髪と同じように、自分の中の罪も許してもらえればと思っていた。
でも、きゆはコーヒーカップを握りしめたまま何も言わない。


「あの日、俺はどんなに遅くなろうときゆの家に向かうつもりだった。

っていうか、あの日の予定はそもそも俺が入れたものじゃなくて、勝手に親父が決めたもので…
だって、俺が、きゆの誕生日に他の誰かと予定を入れるわけないだろ?」


それでもきゆは黙ったままだ。


「実は、親父から見合いを勧められてて、ずっと断ってたんだけど、あの日、強硬手段で、親父が勝手に相手の女性を病院に連れてきたんだ」




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