君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜
流人の言っていることは、きっと真実なのだろう…
あの夜、タクシーから女性と出てくる流人を見て、自分がずっと抱いていた不安が的中したと思った。
きゆは、本当は、流人に伝えたいことは山ほどあった。
でも、伝えたところで何も変わらない…
どんなにジタバタもがいても、何も変わらないことを、きゆが一番よく分かっている。
「言い訳ばかりで悪いと思ってる。
でも、あのタクシーに一緒に乗ってた女性は、あの日だけの付き合いで、たまたま帰る場所が近かったから同じタクシーに乗った。
俺が先に降りて、その後、彼女がタクシーから降りてくるとは思ってなかった。
“今日はありがとう、さようなら”って、そう告げただけだよ」
流人の前髪は思いのほか短くなり過ぎていて、その感じはとてもキュートだった。
きゆはそんな流人を見て、少しだけ微笑む。
その感情は、現実逃避なのか、あきらめの境地なのか、自分でもよく分からない。
「きゆ、ちゃんと聞いてる?
なんか、言ってくれよ…
許せないでもいいし、もっと説明してでもいいからさ…」
流人はきゆから目を離さなかった。
でも、きゆの表情からは何も読み取れない。
許してほしい、元のさやに収まりたい、流人の思いはきゆに届いているのだろうか?…