君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜



流人は目を閉じ大きく深呼吸した。

チャラ男降臨…

流人は盛り上げ上手で軽いノリのもう一人の自分に身をゆだねた。


静かなイントロが流れると、ざわざわしていた観客が急に黙りこむ。
白衣を着たイケメン医師に、皆、目を奪われていた。

流人は真正面に座っているきゆを見つけた。
その隣では、役場の人達が手作りの横断幕を持って体を揺らしている。
もっと奥に目をやれば、今まで診てきた患者さんの顔がちらほら見える。
そして、ステージの下の方には、マルを連れた本田さんも座っていた。

流人はこの島に来る事ができた奇跡に感謝しながら、心を込めてその歌を歌った。



「きゆちゃん、先生、すごい……
こんなに歌が上手いなんて知らなかった…」


きゆの隣にいる役場の保健課の人達が、目を潤ませてそう言っている。
きゆは頷くことしかできなかった。

流人の歌声は、島の優しい風に乗って皆の心に届いているだろう。
この島を愛してくれて、島の人々を尊重してくれて、田舎者のきゆの全てを受け入れてくれる人。

こんな人はきっともう現れない…

きゆは流人を見ながら、大粒の涙を流した。
島の人達が流す感動の涙と同じふりをしているが、本当は全然違う。


流人のことが好き…
たまらなく好きだよ…





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