君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜



夏祭りから10日が過ぎた頃、この島に大きな台風が近づいていた。
今日にも上陸しそうな危うい天気が続いている。

きゆは病院の外に並べている植木鉢を病院の玄関の中に運んでいると、急に大雨が降り出した。
今朝からの強風は更に強くなり、それに加えての豪雨は建物の窓や壁を激しく叩く。

その時、きゆはヘッドライトをつけた車が病院の駐車場に入ってくるのが見た。
受付の窓から見ていると、その軽トラから出てきたのは、本田のおじいちゃんだ。


「本田さん、こんな日にどうしたんですか?」


きゆは殴りつける雨にびっしょり濡れた本田に、タオルを渡しながらそう聞いた。


「いや、台風に備えて家の補強をしてたら工具が足りなくて、そこの商店まで買い出しに来たんだよ。そしたら、ほら、急にこんな豪雨になって。

あ、ここには、シップが欲しくて寄ったんだ」


もうこの頃には役場の方から、海側や山側に面した家の人達に避難を促す島内放送が流れていた。


「え? じゃ、また、家に帰るんですよね?…」


きゆは嫌な予感がして本田にそう聞いた。
本田の家のある集落はとにかく災害が多い場所で有名だったし、この雨ではあの細い道路の脇の崖が非常に危険だった。


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