君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜
診察室にいた流人も待合室まで出てきて、きゆの険しい表情を見た後に、窓から荒れ狂う外を見定めた。
「この感じじゃ、かなり台風が近づいてるな…」
流人がそう言うと、本田のおじいちゃんは急に慌て出した。
「流人先生、シップを出してもらっていいかい?
その後、急いで帰らないとならんから」
きゆは本田の前に座り、落ち着かせるようにこう言った。
「本田さん、今日はこのまま研修センターに泊まった方がいいですよ。
今、役場の方から、本田さんの家がある地区に住んでいる人達への避難命令がどんどん出てる。
私も一緒にセンターに行くので、そうしましょ?」
きゆの言葉は、本田の耳には全く届いていない。
本田の顔は更にこわばり、急に立ち上がると外へ出ようとした。
「いやいや、帰らんといかん。
マルが家の中じゃなくて外の小屋にいるから、連れてこないと小屋ごとふっ飛ばされる」
本田は80歳の高齢なのに気丈にも口元を引き締め、長靴をはき出した。
「本田さん、無理ですよ。
この雨じゃ、あの細い道は通れるかも分からないし、それに高潮警報も出てるから、本田さんの家は危険過ぎます」
「いや、大丈夫。
わしが行ってやらんと。
マルが心細い気持ちで待ってるから」