君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜
「すみませ~~ん」
流人がその民家に着いた時、初めて島が停電していることに気づいた。
ほんのり見えた窓からの明かりは、ろうそくの灯りだった。
玄関で人を待っている間、この家の周りを懐中電灯で照らしてみると、家の裏はむき出しになった崖が間近に迫っていた。崖の上からは鉄砲水のような雨水がどんどん流れ出している。
「は~~い」
家の奥からやっと声が聞こえた。
「あの避難は?今から誰か来るんですか?」
流人が早口でそう尋ねると、腰の曲がった70代の女性は笑いながら首を振った。
「向こうの集落にある公民館に避難するようにって役場の人に言われたけど、車の調子は悪いわ、うちは猫がいるから、遠慮したんだ」
また、これだ……
「あの、僕は田中医院の人間で、ちょっとここを通りかかったら明かりが見えたもんで、とにかく僕の車でセンターまで連れて行きますので。
あ、猫は、何匹ですか?」
光浦のおばあちゃんはその雨にびっしょり濡れた若いお兄ちゃんをいかがわしい目で見ていた。
でも、何かを思い出したように合点のいく顔をしてこう聞いてきた。
「あの、カラオケで優勝した先生かい?」