君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜
「あ、ま、はい」
「流人先生だ。先生、ほんとに歌上手だったよ~~
私は、前の方で見てたんだけど、分からなかったかい?」
いや、分かるはずないっしょ…
というより、こんな悠長にお喋りしてる暇はない。
「あの、ニャンコは?
いや、ニャンコの名前は?」
「チロとチビ。でも、停電してからはどこに行ったのか…」
流人はそのおばあさんの前で、大きな声でチロとチビを呼んだ。
「先生、うちの猫たちは警戒心が強いから」
そう言ってる矢先に、チロとチビが暗闇から顔を出した。
「おや、まあ、なってこったい」
「僕は、どうやら人間様より動物たちの方が分かりあえるみたいなんです。
それより、おばあちゃん、急がなきゃ。
そこにある段ボールをもらっていいですか?」
流人は光浦のおばあさんが頷くのを確認すると、二匹の猫を捕まえてその箱に入れた。
その猫たちは、流人に魔法をかけられたように静かに寝転がった。
「うちのニャンコは二匹ともメスだから、どうやら、先生に惚れたみたいだね」
流人はお喋り好きなおばあちゃんも背中に負ぶって車まで連れて行った。
もう家の外は水浸しだ。
「おばあちゃん、いつも通る道はもう通れなくなってるんです。
他に抜け道を知りませんか?」
「そっか、じゃ、あの道を使うしかないね。
ちょっと遠回りになるけど、私の言う通りに進んでごらん」