君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜
流人はもう生きて帰れないと真剣に思った。
光浦のおばあさんに言われて走っている道は、もはや道ではない。
森の中にある細長いスペースを走っているようなものだ。でも、森を吹き抜ける突風の勢いはすさまじく、たまに車が浮いてしまう感覚があるほどだった。
とにかく、今は、ひたすら坂を上っいるはずだ。それすらも、真っ暗闇の中では認識できない。
「先生、ここからは多分、右側が崖になってるから。
道は狭いけど、でも、距離は短い。
ここさえ抜ければ大丈夫。
あとは、なだらかな道を下っていくだけだから」
「マ、マジっすか…」
さすがの流人も鳥肌が立つほどの恐怖が襲いかかり体が震えた。
「何も考えずに真っ直ぐ走れ。カーブはない、ひたすらまっすぐ」
「が、崖は大丈夫ですよね?…
崩れたりとかは?…」
「崩れたら崩れたで死ぬだけだ。
それもこれも私達の運命、だから、毎日を精一杯生きる。
いつ死んでも悔いが残らないようにね」
いい言葉だった。
こんな状況じゃなければ、メモにでも取りたいくらい。
でも、逆に、こんな状況だからこそ、胸に響くのかもしれない。
「光浦さん、僕は、光浦さんと運命を共にしたくありません。
死ぬ時は愛する人の元で死にたいので」
「じゃ、脇目も振らずに運転しなさい。
集中して、真っ直ぐに、猛スピードで!」