君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜



きゆは飲むことも食べることも忘れ、待合室の長椅子に茫然と座っていた。

閉め切った病院の中にも、外で鳴り響くサイレンの音や、島内放送のアナウンスががんがん聞こえてくる。
どこの地域でがけ崩れが発生したとか、どこの地域が床下浸水とか、災害は各地に広がっていた。
この非常に強い台風は夜中の3時にこの島に上陸するらしい。

きゆはもう時計を見るのは止めた。
時計を見て時間を知る事は、流人に最後に会ったあの時間を思い出してしまうから。

どうして止めなかったのだろう…

きゆは恐怖と後悔の念で涙も枯れ果てた。
泣いても、泣いても、祈っても、祈っても、流人はまだ帰って来ない…

もう、深夜の零時もとっくに過ぎた。
時間を知りたくなくても、携帯を見るたびに嫌でも時間が目に飛び込んでくる。

お願いします…
神様、流人を無事に帰してください…

もう何百回祈っただろうか、きゆは亡霊のように窓へ様子を見に歩いて行く。
流人は、今、どこで何をしているのだろう…


その時、窓の外に見える駐車場に車のヘッドライトが近づいてくるのが分かった。


「流ちゃん」


きゆは横殴りの雨が降る中、外に飛び出した。
そこには、雨と泥でびしょ濡れになった流人が立っている。


「…きゆか?
あ~、やっと帰って来れた」


きゆは何も考えず流人に抱きついた。
涙がとめどなく流れて、嗚咽で何も話せない。


「ただいま…」


雨の音も風の音も何も聞こえないし、聞きたくなかった。
今は流人の声と流人の脈打つ鼓動しか聞きたくない。


良かった……
本当に良かった……






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