追憶が今日も、僕の胸を締め付ける
どのくらいの間ベンチで涙を流していただろうか。明るかったはずの外がだんだんと暗くなってきていた。指先も冷え切っていて寒くて仕方がない。
そりゃあそうだ。冬の公園でずっと座っていたら冷えるに決まっている。

帰ろう。

そう思って腰を上げると、懐かしい香りが鼻をかすめた。香水とは違う、優しくて包み込んでくれるような香り。
香奈の香りだ。弾かれるようにその香りを放つ人へと顔を向けた。もしかしたら香奈かもしれないなんて淡い期待を胸に抱いて。

「……な訳、ねえか。」

香奈はショートヘアーで、ヒールを履いても俺に届かないくらいの身長だ。だが俺の視線の先にいる女性はロングヘアーでヒールを履いて俺と同じくらいの身長。明らかに香奈ではない。

女性は怪訝そうに俺に視線を向けてその場を足早に去っていった。変質者と勘違いでもされたのだろう。

少しでも期待をしてしまった自分が恥ずかしくて悲しくて、小さく溜め息をついた後に公園に足を踏み入れた時の足取りと同じ、ゆっくりとした足取りで帰路についた。
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