HEAVEN ROAD
ゆっくりと目を開いた先には宗の拳を左手で受け止めている豊の姿が……



「やっぱりな……」



宗は手を引っ込め、あたしを睨みつける。



「やっぱりできてたんだな」



「違う!!」



あたしは立ち上がり、宗に向かって大声を上げた。



わかって欲しい。



あたしは本当に宗だけを見ようとしたし、宗の側にいられる事を心から望んでいた。



「何が違うんだ?カナ?お前はやっぱり俺を裏切っていたんだろう?」



さっきとは違う、感情のこもっていない宗の声がやけに耳に響く。



裏切った……心から豊を消せなかったことは、宗を裏切ったことと同じ。



でも、宗を騙してたわけではない。



心の中では沢山の言葉が出てくるのに、宗の問いかけには答えられないあたし。



真っ直ぐにあたしを見つめる宗の瞳の前で、“裏切ってない”とは言いきれなかった。



「コイツは俺となんか付き合ってねぇよ」



ボソッと呟く豊の声に宗の表情は再び歪んでいった。



「お前には聞いてない。なぁ、カナ。答えてくれ」



「俺とコイツは昨日久しぶりに会話をしたんだ。あんな風に偶然会わなければ、この先も話すことなんてなかった」



宗の挑発的な言い方にも豊は動じずに冷静に宗に語りかける。



本当はあたしが言わなきゃいけない言葉。



「じゃあ、どうして俺達の邪魔をしようとする?」



宗は一歩前に踏み出し、豊に近づいた。



あたしは……ただその光景を眺めているだけ。



あたしのことなのに、あたしと宗の問題なのに、他人事のように眺めていることが精一杯。
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