HEAVEN ROAD
「あたしを助けてくれたのは祐樹だったの」



祐樹はあたしが目を覚ますとベッドの横のパイプ椅子に座っていた。



クラスで向けられている視線と同じ視線であたしを見ていた。



「美央を殺人者にしたくないからお前を助けた。祐樹はそう言ったんだ。そして、ママが祐樹のお父さんと一緒に暮らす事を知らされた」



この時、あたしは喜んでいた。



祐樹や美央の悲しみなんて知りもしないで、ママの恋が実った事を心の中で喜んでいた。



「あたしは次の日の朝、ママが迎えに来てくれて退院した。安静にしていれば通院でいいって言われた」



そして、この日からだった。



祐樹のお母さんが毎日うちを訪ねて来るようになったのは……



新居に移る準備をしていたあたし達の元へ何度も何度もインターフォンは鳴らされる。



そして、「あの人を返して」とすすり泣く女の声。



「あたしは新年が明けて、冬休みが終わっても学校には行けなかった。新居に移ってママと新しいお父さんと祐樹との生活が始まったけど、あたしは部屋から出られなくなってた」



それは何でかは未だにわからない。



美央が怖かったわけでも、死ぬ事に怯えていたわけでもない。



ただ、すべての事から逃げ出してしまいたかった。



美央からの暴力も……



祐樹の視線も……



ママとお父さんの甘い声も……



すすり泣く女も……



もう何もかもが見たくなかった。聞きたくなかった。

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