HEAVEN ROAD
豊が座ったせいでソファーが沈み、あたしはバランスを崩しそうになる。



「お前はそのほうがいい」



「はっ?」



いきなり何言ってんだよ。



「その言葉遣いの悪さ。そのほうがお前らしい」



「誉めてんのか?」



「たぶんな」



あたしらしい……



あたしらしいなんて自分でもどんなことかわからない。



髪を染めるまでは、割と綺麗な言葉遣いだったし……



どれがあたしらしいかなんて実際のところはわからないんだ。



でも、豊がそう言うなら、これがあたしらしいんだろう。



言葉遣いが悪いのがあたしらしいだなんて、素直には喜べないけど。



豊と隣に並んで過ごす時間は嫌いじゃない。



何か話をするわけではないけど、時を刻んでいるって言葉がピッタリの空間。



そんな空間に割って入るように、あたし達の前に腰を下ろしたのは秀だった。



昨日、見たはずなのに、何年も会っていないかのように急に老け込んだ秀。



きちんとセットされていた髪の毛も今日はボサボサだ。



しっかり者で、いつだって抜かりのない秀なのに、今日はまるで別人になったみたい。



煙草を指に挟み、火をつけようとしているけど、ライターはシャッシャッと音を鳴らすだけで、一向に炎があがらない。



そんな秀の前にライターを差し出す豊。



「サンキュ」と言ってライターを受け取った秀はやっぱりいつもの秀じゃなかった。

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