清楚な優等生は小悪魔系?(仮)
優等生(仮)と王子様(仮)
二人の出会い
須川薫子。
須川病院のひとり娘であり、将来は某有名大学の医学部を目指す秀才である。理知的に整った顔に、肩で真っすぐに切り揃えられた黒髪、そして隙なく着こなした制服のせいで少々近寄りがたい才色兼備の美人。
休み時間は常に分厚い文庫本を広げ、クラスの雑用も快くこなすため、教師からの人望も厚い。
一方、俺、こと早乙女タカキは、軽くパーマのかかった色素の薄い栗髪(髪色は実は地毛だ)に、だらしなくならない程度に着崩した制服と、ゆるい口調のせいか、チャラついた遊び人のキャラが定着している。
実際噂(それなりにモテるとはいえさすがに三股かけたことはないし、今はお付き合いしている彼女もいない)ほど浮ついた性格でもないのだが、かっちり真面目に過ごすのも面倒なので、特段否定もせずにゆるい学校生活を過ごしていた。
そう、まるで何処かの学園ドラマから飛び出してきたような、完璧な「優等生」である彼女と、へらへらした「チャラ男」の俺は、たとえ同じクラスメートだとしても、互いにどこか遠い世界の住人であり、接点などあるはずもなかった。
そう、接点などあるはずもなかったのだが……。
「ねえ、何よそ見してるの、早乙女くん」
「……ゴメン、ナンデモナイヨ」
それならいいけど、と桜色の形の良い唇をとがらせて膨れっ面をしている薫子は、表情のせいかイメージよりもずっと子供っぽいのに、理知的な目元と艷やかな唇は大人めいていて、思わず片言になってしまう。
(緑高の王子サマがざまあないな……)
なんて馬鹿馬鹿しいことを考えつつも、学校での優等生然とした隙のない姿から想像もできないような薫子の魅力に、一介の男子高校生がくらっときてしまうのは仕方ないように思う。
「ねえ、」
振り向いて、なにか、と問おうとした瞬間、肩をそっと掴まれ耳に唇が寄せられた。吐息さえ感じる距離にカチコチに固まってしまったタカキに構うことなく、薫子は甘い声で囁く。
「タカキ、って呼んでもいい?」
つやつやとした唇が軽く触れた耳がカアッと熱をもつのを感じながらタカキは確信した。
(こいつはとんでもない小悪魔だ……)