*短編*放課後、きみとわたし、おなじ赤。
放課後、きみとわたし、おなじ赤。
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「――ねえ、廣田はさあ、自分の友だちが誰かに恋をする瞬間って、見たことある?」
正確には〝友だちが〟じゃなくて〝自分の好きな人が〟だけどね、と心の中で訂正しながら、スマホのゲームに夢中の廣田に聞いてみた。
放課後の、ひと気のいない教室。
わたしの前の席の子の椅子にうしろ向きに座る廣田の頭が、その瞬間、ぴくりと動いた。
「なんだよ、唐突だな」
「いや、うん、そうなんだけど。この前、ちょっと見ちゃって。びっくりしたっていうか、初めて見る顔だったから、急に一線を引かれたような気持ちになっちゃってさ。ショック……っていうのもあるのかな。勝手に少し落ち込んじゃって」
「へー。そんなこともあるんだな。で、自分の友だちが恋に落ちる瞬間、だっけ?」
「うん。見たことある?」
スマホの画面から顔を上げずに淡々と相づちを打つ廣田に改めて聞いてみる。
廣田がわたしの前でゲームに興じるのはいつものことだ。
だから今さら、話している最中なのにスマホから顔を上げないなんて失礼な、とは思ったりしない。
ちなみにわたしたちは帰宅部で、お互いの親友の部活が終わるのをたまにこうして一緒に待つことがある。