カモフラージュ
社長は、寒そうにポケットに手を入れた。
「ありがとう」
「いいえ」
此処で、営業スマイルは忘れない。
社長の後ろを歩き、階段の下まで降りた。
「今日は、本当にありがとうございました」
「気にしなくて良いよ」
「はい、美味しく頂きます」
軽くお辞儀をして、顔を見上げた。
すると、頭をクシュクシュと撫でて
「あまり、頑張り過ぎない様にね!」
と、笑った。
その手が、その撫で方が、兄に似ていた。
え、誰この人?
あたしの事なんて知らないのに・・・
スー
頬に涙が流れた。
「どうしてですか?」
「ん?」
「いえ、なんでもないです」
「みんな、待ってるから行きなさい」
社長は、親指で涙を拭い
千尋の肩に手を置いて、前を向かせた。