聖夜に口づけのプレゼント
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クリスマスイブの日。テレビの映像でさえクリスマス一色で嫌になる。
そんな中、待ち合わせ時間に家の前に立って待っているのは、今日は何を思ったのか秀弥が車で私を迎えに行くと言い出したからだ。
数分待つと、目の前で止まった黒のセダンの窓が開かれた。
「緑。待った?」
窓から見える秀弥は確実にいつもと違う。いや、秀弥の着ているものが明らかに違う。
「なっ、何!?何その格好!?」
「スマートカジュアルな感じ。なかなか似合ってるだろ?」
目を丸くする私にそう言って紺のニットタイをつかんでみせる秀弥。
普段の秀弥はジーンズが主。寧ろ、作業着のままなんて日だってある。
なのに、茶色のジャケットに紺のニットタイとベスト。更にベージュのズボンという出で立ち。次いでに言えば、悔しいかな似合ってもいる。
「まあ……。っていうか、どこに行く予定なわけ?」
「ホテル」
「えっ!!」
「のディナー」
「あっ……そうなんだ」
ホテルと言われて、泊まりなのかもと一瞬ドキッとした。そんなわけないのに。そんな事あるわけないのに。
そんな思いを消し去る様にブンッと一回大きく首を振ると、反対側に周り車の助手席へと乗り込んだ。
車が動き出した所で、ふと自分の服装を見てみると当然ながら居酒屋仕様に仕上がっていて。このままホテルのディナーに行くにはかなり痛い。
「あのさ。私の服、場違いになると思うんだけど」
「うん。なるかもな」
「じゃあ、何で…」
場違いになると分かってて、何処に行くか教えてくれなかった秀弥にムッとして少し口調を荒くしたその時、秀弥が車を止め窓の外を指差した。
「だから、先ずはこっちな」
秀弥の指の先にあるのはフォーマルやインフォーマルを取り扱っている店で。店に入るなり秀弥が店員に目的を伝え、それに見合ったベージュのワンピースをお勧めされる。
商品を持って「こちらはいかがですか?」と訊かれると、それを無下にも出来ない性格故にか、「えと。あっ、じゃあ」と受け取ってしまうわけで。
気付いたら、試着室の中でお勧めされたワンピースを身に纏って立っていた。