聖夜に口づけのプレゼント
この辺りで有名なホテルに着くと、ロビーを通り目的の場所へ。私はといえば、やっぱりわけが分からないまま秀弥についていくのみ。
ピッという電子音の後に開かれたドアの中へ足を踏み入れれば、そこはクリスマス一色の煌めく部屋。鎮座するダブルベッドに、夜景を堪能出来る場所に置かれたテーブル。その上にはシャンパンと赤ワインが置かれていて、ディナーのセッティングもされている。
テーブルの側にツリーまで置かれているのだから申し分ない。
そんな素敵過ぎる部屋に思わず「すごい」と声をあげたわけだが。直ぐに一つの大きな疑問が私の頭の中を占めた。
「あのさ」
「ん?」
「めちゃくちゃ凄く綺麗な部屋で、素敵なんだけどさ」
首を傾げたままの秀弥は、だから?と言わんばかりの顔で私を見ているけど、私としてはそれどころじゃない。
だって。だって……。
「ここ、ホテルの部屋じゃんっ!!」
「うん」
「うん。じゃなーい!!付き合ってもない私達がこんなの可笑しいてしょうがっ!」
「そう?」
「そう?じゃないしっ!」
私の怒りが分からないという風に首を傾げる秀弥に、苛立ちがつのる。
馬鹿だとは思ってたけど、ここまでとは……。
そう思った時、秀弥が口を開いた。
「でもさ。俺は緑の事を本気で好きだし。本気で緑と結婚したいと思ってるよ」
結婚という最近よく聞く言葉。でも、今日はいつもと違う場所で真剣な顔をしてそう言う。
一気にドクンッ、ドクンッ…と速く大きくなる鼓動。それに伴って火照りだす顔。
「わ、私は……」
やっとの思いで出したその言葉を、そっと私の唇に当てられた秀弥の人差し指が止めた。
「その続きは料理を食べ終わってからで」
直ぐに離れていく秀弥の指。ただ、唇に当たった温もりは直ぐには消えない。
私がこんなにも動揺しているのに、慌てた様子なんて一切ない秀弥は先に料理の運ばれてくる席へ歩を進めていて。仕方なしに、私も煩い心臓の音を頭に響かせたままその後に続いた。