今宵、ホテルの片隅で。
週末、残った仕事を終えてたどり着くのは、会社近くの居酒屋。
L字カウンタの奥に先に陣取ってくれたのは、1個上の先輩で情報誌の編集をしている亜紀さん。
「このホテルって、結婚式ができる披露宴会場が併設してるよね」
隣に座り、ビールを頼みつつ、刊行したばかりの情報誌を亜紀さんは飲みかけのビールと漬物の皿が乗ったテーブルに広げた。
亜紀さんは編集の仕事がしたいとわたしのいるデザイン部から編集部へ異動し、今は情報誌の取りまとめを行っている。同じ休みを利用してお互い独身同士傷をなめあいつつ、居酒屋やコーヒー店でストレスを発散していた。
「そうみたいですけど」
「雪村くん、そこで結婚式やるみたいよ。それも、冬子の誕生日に」
雪村という懐かしい名前が心に響いているところでビールが来たので、亜紀さんと乾杯をする。
「まさかあんたの誕生日に結婚披露宴だなんてね。どこまであてつけするんだか」
と、ボリボリと音を立てて亜紀さんは漬物を頬張る。
「あんたも結婚踏み切れなかった理由もあるんだろうけど」
「……まあ、そうですけど」
彼とは学生時代に出会い、同じ会社に就職したけれど、彼が地元へ戻ることとなり、遠距離恋愛をした。最初の頃は週末会うようにしていたけれど、お互いの休みがどんどんずれて、メールで近況報告していた。返信が途切れた時、好きなひとができた、すでに二人の間に愛の結晶が宿っていると、共通の知り合いである亜紀さんから聞かされた。
「亜紀さん、提案なんですけど」
何? と亜紀さんはメニュー表を見ながら次のつまみを品定めしている。
「後輩の白井ちゃんも呼んで今月末このホテルで女子会やりませんか?」
「女子会? 編集の彼氏ナシ白井ちゃんを巻き込んで?」
「このさびしい冬子を亜紀さんと白井ちゃんの力を借りて前を向いて生きていこうかなって」
「日程調整するから」
「ありがとうございます!」
楽しみがあるだけで仕事に張り合いがつくものだ、と泡の消えかけたビールをあおった。
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