今宵、ホテルの片隅で。
駅からすぐのロケーションにあるこのホテルは山と海に囲まれた観光地へ出かけるのにちょうどいい場所だ。
夏野くんにはホテルの場所を伝えて落ち合うことになった。
ホテルプランは宿泊とディナーのセットだったので先にチェックインを済ませなければいけない。
受付ロビーに向かおうとすると、聞きなれた声でわたしの名前を呼んでいる。
「水鳥さん、ちょっと早く来ちゃいました」
いつもだらっとした服にぼさぼさな髪の毛なのに今日はカジュアルなスーツに髪の毛もきれいに遊ばせている。
「グレードアップできますよ」
と、コンシェルジュから提示されたのが、スーペリアダブルの部屋だった。
事前に知らせた3人から2人に変更になったこともあっての配慮だろうか。
「あ、あの。この部屋」
「ちょうど1室空いておりまして。よかったらお使いください」
ルームキーをもらい、ロビーから部屋のあるエレベーターホールに向かう。
「ディナーまでだから」
「わかってますって」
といいながら、夏野くんが鼻歌まじりで後ろをついてくる。
部屋の鍵を開けて、ワンルームの自宅よりも広い部屋に感嘆のため息が出る。
灰色の絨毯が敷き詰められた部屋にはクイーンズサイズのベッドが鎮座し、茶色のシンプルなテーブルと紺色のソファが備え付けられている。
締め切った天井からのびるベージュのカーテンを引くと、目の前には遠くは山々、手前にいくにつれて街並みや海が一望できる。
視線に気がつき、振り返ると夏野くんは黙ってみていた。
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