星屑プリンセス
ディナーのあと私達は自然とツリーの前へ向かった。
スケッチしている時は宙を舞うようにしか見えなかったのだが、間近から天を仰ぐと、二人の天使が手を合わせているような錯覚をする。それは私が贈った絵を連想させて、少し悲しくなった。
「会いたかったな」
「ん?」
「あるおじいさんと約束していたんです」
再会は叶わなかったけれど、偶然にも素敵な時が過ごせたことに感謝しよう。私が眉を下げて微笑むと彼は視線を落とした。
「ごめん。〝おじいさん〟も会いたがっていたんだけど、王子様役を代わってもらったんだ」
「どういうことですか?」
「実は祖父なんだ。君の絵、すごく喜んでいたよ」
「祖父……」
「俺も実際にはないはずの天使に癒された。作者もよい一時になったのかなとか、勝手に想像して幸せだった」
ツリーを見た時の幸せな気持ちが伝わるように描いた思いが、誰かに届いたことが嬉しかった。彼は私の夢も思いも知っていたらしい。
「聞かされた君の熱意に刺激されて、俺もがんばろうと思った」
「知らない人なのに?」
「君の絵が一つの応えというか。とにかく俺の仕事の支えになったから、お礼に今日は楽しんでもらおうと思ってチケットを……」
「最初から私のために用意していたんですか!?」
「まぁね。パートナーがいないみたいだったんで、ご一緒させてもらったけど」
彼は眉を上げて微笑む。出会いは必然だったなんて、こんな不意打ちは反則だと私は口を尖らせた。
「それならもっと愛想よくしてくださいよ」
「年寄り呼ばわりされたうえに、明らかに落胆して避けられたらヘコむだろ」
「すみません」
「でもどんな人でもよかった。ただありがとうと伝えたくて、一年待ったんだよ」
私が頬を染めて彼が好きだと言った絵を渡すと、王子様はやわらかな笑顔になる。
「〝君〟に会えてよかった」
優雅に差し出された手のひらに吸い寄せられるように自分の手を重ねた。もしかすると、これは恋に落ちる瞬間なのかもしれない。私は恥じらいつつも再会を願う。
「来年も、あなたに絵を贈りたいです」
彼は静かに首を左右に振り拒んだが、裏腹に指先は絡められる。
「俺は、明日も君の絵がほしい」
「えっ」
「また一年も待てない。明日も明後日も、君に会いたい」
私は目を見開いたままポインセチアのように赤くなる。気づけば繋いだ手に引かれ、ツリーの輝く光の中で抱きしめられていた。
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