星屑プリンセス
温もりに包まれていたのはとても長い一瞬で、名残惜しさに彼を見つめる。
すると彼は唐突に、かしこまり一礼をした。上着の内ポケットから取り出した金色のネームプレートを胸元に着けると、途端に凛々しい顔つきになり、その唇は落ち着いたトーンで丁寧に言葉を紡ぎ出す。
「本日は当ホテルにお越し頂きまして、誠にありがとうございます。申し遅れましたが私、総支配人の――」
「う、うそ!」
「本当」
ニヤリと口角を上げた彼が咳払いをして背筋を伸ばした。
「今年のクリスマスツリー、お気に召して頂けましたか?」
総支配人って、じゃあ彼がツリーを?それならば、まさかあれは私が描いた天使。
……似ているはずだ。彼が再現したのだと思うと感動して言葉にならなかった。
「お姫様、今宵はロイヤルスイートでシャンパンの星のように幻想的な一時はいかがでしょう?」
こんな彼は別人みたいでこそばゆい。本来の姿を抑えているのだと思うと滑稽だけれど、様になる妙な食い違いに私の身体は熱くなるばかり。そして甘く真摯な声色が私を誘った。
「もしよろしければ、私のために絵を描いて頂きたいのですが」
「……ぜひ、喜んで」

もう一度描こう。女の子が王子様のために絵を描き続けたのは、王子様の笑顔が大好きだったからだと伝わるように。大きなツリーの前で微笑み、幸せそうに寄り添う二人で幕を下ろす、そんなラストシーンが浮かんだ。

この世界に、彼はどんな名前を付けるのだろうか。
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