L'eau, je suis important...



ある日。塾の帰り道で、人を殴る光景を見た。


血が飛び、苦しげに倒れる人。

イキイキとした表情で拳を握り直した男。


その光景を見て僕はゾクッとした。


それが興奮だったのか恐怖だったのかはわからない。


でも、その日の光景を忘れられなかった。


その日以降うまく勉強に集中できなくなり、順位もありえないくらい落ちた。



親の対応は変わらず、愛情も感じた。

でも成績表を見せたときの悲しげな表情が忘れられなかった。


なんなら、怒ってくれればよかった。

順位を落とした僕を蔑んでくれればよかった。


それでも優しく「次は頑張りなさい」という両親に耐えられなくなった僕はグレた。


夜遊びをするようになって、家に帰らなくなった。


そんなときに出会ったのが、あのとき人を殴っていた男だった。


「なぁ、お前帰る場所ねぇのか?」

「……」

「なんとか言えよ…」

「…ない、です……」


ボソボソと言う僕にその男はため息をついた。


「じゃあ、俺んとこに来るか?」


そう言ってくれたのが当時炎龍の総長をしていたヤクさんだった。


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