近すぎて
いまさら告白する恥ずかしさや、心が弱っているところへ付け入るようなまねをする後ろめたさ。
いろいろな感情をごっちゃに丸めてぶつけた俺の想いは、予想外の形で拒まれる。

だからといって、再び動き始めてしまった恋心をまた閉じ込めることなどできなかった。
猶予をもらえたということは、可能性は0じゃない。だったら、こじらせていた分まで凝縮し全力で気持ちを伝えるまでのこと。

あんな無理した笑顔でなく、心から思いっきり笑えるように、俺がしてやる。

そう気を取り直して突きつけた宣戦布告に、薫は斜め上からの攻撃――いや、あれは小惑星さえ木っ端微塵にできるミサイルだ―― をしかけてきた。


ほんのり上気させた頬と花の香り。心にまとった鎧のようだったパーティードレスを脱ぎ、リラックスした姿で現れた時は、どんな拷問かと神を呪う。
あいにく俺はそっちの趣味はない……はずで。

あれか?もしかして、口では嫌とか言いながらってヤツだったのか?
もっと強引に、キスやその先も奪ってしまえばよかったのだろうか。

頭に浮かんだずいぶんと身勝手な解釈を苦笑で打ち消す。あの薫に限ってそんなわけはない。

例え、酔った勢いだと言い訳してひと晩身体を重ねることができたとしても、そのあときっと、彼女の心は二度と手の届かない遠い場所へいってしまっていたに違いない。

すんでのところで踏ん張った自分を褒めてやる。もし俺が、あと5年若かったらどうなっていたかわからないが……。

そう思い至ると、離れていた歳月が途端に意味をもつ。

一年かけてじっくりと、俺がどれだけ薫を想っているのかを伝えよう。
あの、白目を剥く半目でにったりと笑みを浮かべた寝顔を最高に可愛いと想えるのは、世界中を探しても、たぶん俺だけだって。


あれこれと作戦を練っているうちに、飛行機が着陸態勢に入るというアナウンスが流れてきた。



 ――【遠すぎて】完 ――


2017/02/12

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