近すぎて
* ここにいて
最後にもう一度、室内に向けて頭を下げてから自動ドアをくぐる。
途端にびゅっと冷たい12月のビル風に吹かれ、左に流した前髪がもっていかれた。
慌てて全開になったおでこを押さえる。恥ずかしい……。
「どこかでお茶でもしていくか。上手くいったご褒美に奢るよ」
コートに袖を通しながら、千崎(せんざき)さんが駅に向かって歩き始めた。彼の長い脚が作る歩幅は広くて、あっという間に差をつけられてしまう。
それをアスファルトでヒールを鳴らして追いかける。腕にはまだコートを掛けたまま。
「ちょっと!待ってください!!」
思わずかけた声に、千崎さんは驚いたように足を止め振り返った。
「悪い。あまりにも寒いから」
早く温かいところに行きたいのは私も同じ。でもせめて、コートくらい着させて欲しい。
歩道の端に寄って、キャメルのトレンチコートを急いで羽織る。ライナーがついているからこの季節でも十分暖かいのだ。
「すみません」
ビルの窓ガラスを鏡代わりに身なりを整えて彼に並ぶ。5センチヒールを履いた私でも高いと感じる身長は、きっと慎司と同じくらいだろう。
自分たちと似たような格好と組み合わせの人行き交う、昼下がりのオフィス街。
年末間近という季節柄か、日に日に下がっていく気温のせいか、心なしかみんな早足に思える。
「カフェなんてありましたっけ?」
行きに通った道筋を思い浮かべてみても覚えがない。たしか、定食屋さんとラーメン店、それに……。
「コンビニくらいしかなかったかな」
千崎さんも私と同じ答えを導き出す。
と、ちょうど進行方向に、その店名を大きく掲げた看板が見えてくる。
「サンサンマートのコーヒー、最近味が変わりましたよね」
「ああ!プレミアムリッチの方だろ!?どっかの店舗で評判が良かったから、取扱いを拡大してるって聞いた」
「ヘタな喫茶店のコーヒーより美味しいと思いますよ。しかも半分以下の値段で!」
話しながらも私達の足は、ロゴに描かれた暖かな日差しを注ぐ太陽に引き寄せられるかのように、真っ直ぐコンビニへと向かって行った。
途端にびゅっと冷たい12月のビル風に吹かれ、左に流した前髪がもっていかれた。
慌てて全開になったおでこを押さえる。恥ずかしい……。
「どこかでお茶でもしていくか。上手くいったご褒美に奢るよ」
コートに袖を通しながら、千崎(せんざき)さんが駅に向かって歩き始めた。彼の長い脚が作る歩幅は広くて、あっという間に差をつけられてしまう。
それをアスファルトでヒールを鳴らして追いかける。腕にはまだコートを掛けたまま。
「ちょっと!待ってください!!」
思わずかけた声に、千崎さんは驚いたように足を止め振り返った。
「悪い。あまりにも寒いから」
早く温かいところに行きたいのは私も同じ。でもせめて、コートくらい着させて欲しい。
歩道の端に寄って、キャメルのトレンチコートを急いで羽織る。ライナーがついているからこの季節でも十分暖かいのだ。
「すみません」
ビルの窓ガラスを鏡代わりに身なりを整えて彼に並ぶ。5センチヒールを履いた私でも高いと感じる身長は、きっと慎司と同じくらいだろう。
自分たちと似たような格好と組み合わせの人行き交う、昼下がりのオフィス街。
年末間近という季節柄か、日に日に下がっていく気温のせいか、心なしかみんな早足に思える。
「カフェなんてありましたっけ?」
行きに通った道筋を思い浮かべてみても覚えがない。たしか、定食屋さんとラーメン店、それに……。
「コンビニくらいしかなかったかな」
千崎さんも私と同じ答えを導き出す。
と、ちょうど進行方向に、その店名を大きく掲げた看板が見えてくる。
「サンサンマートのコーヒー、最近味が変わりましたよね」
「ああ!プレミアムリッチの方だろ!?どっかの店舗で評判が良かったから、取扱いを拡大してるって聞いた」
「ヘタな喫茶店のコーヒーより美味しいと思いますよ。しかも半分以下の値段で!」
話しながらも私達の足は、ロゴに描かれた暖かな日差しを注ぐ太陽に引き寄せられるかのように、真っ直ぐコンビニへと向かって行った。