近すぎて
「ところで、これ何?」

席に置かれていた、赤唐辛子みたいな形のストラップを持ち上げた。中華料理店でも、こんな感じの飾りを見かけた気がする。

「この前行ったイタリアの土産。虫除け?だったかな」

「唐辛子なら確かに米びつに入れて虫除けにするけど、偽物でも効き目ってあるの?っていうか、またイタリアなんか行ってたんだ」

ためつ眇めつしたあと、唐辛子エキスでも練り込まれているのかと匂いを嗅いでみたけれど、特になにも感じない。

「新店舗用の買い付けに。今回はあまりめぼしい物が見つからなかったけど」

慎司は国内外を問わず文字通り東奔西走している。前回会ったときは、微妙な表情をしたパンダのぬいぐるみをもらった。
ブランド物のバッグを買ってこいとは言わないけれど、子どもへのお土産のような選択に、疑問がないわけじゃない。

それでも、さっそく唐辛子を携帯に付けて満足してしまう自分は、いったいどうしてしまったのだろう。

アルコールを止められてしまったので、ひたすら食べることと喋ることに口を動かすことにした。
最近観た映画、気になっているタイトル。学生時代の思い出話。
慎司からは、海外で見聞きした面白話やときどき愚痴。

いくら話しても話題はまったく尽きないというのに、慎司は腕時計をチラリと確認した。

「そろそろあがるか」

会計を頼もうとするから、ほんの少しワガママな私が顔を出す。

「まだ十時じゃない。高校生でもあるまいし。そんなに明日の朝、早いの?」

「ん。まあ、そこそこ……」

なら、仕方がないか。
割り勘よりちょっとだけ慎司が多く支払って、お店をあとにした。




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