近すぎて
高校からの同級生だった小百合、慎司と恭一は大学の同期生。講堂に忘れた小百合の携帯を拾って届けてくれたのが恭一たちだった。
彼らに誘われるがまま私たちは映画鑑賞サークルに引き込まれ、大学ではもちろん、鑑賞会と称した飲み会などでもよく一緒にいた。そんな中で当たり前のように、私は明るく気配り上手な恭一に惹かれていく。
皆でいる時でも、私の目は無意識に恭一を追っていた。だから小百合の視線もまた、同じく彼に向いている事に気づくのもすぐだった。
あまりにも早く知ってしまったせいで小百合に自分の恋心を打ち明けられず、友情と恋情の狭間で揺れる想いを持て余していたある日。「恭一君に告白しようと思う」と恥ずかしそうに顔を朱く染める小百合に相談を受けたのだ。
この時ほど、自分の中にある負の気持ちを自覚した事はない。小百合は何も悪くないとわかっているのに、自分の気持ちに正直な彼女に嫉妬する。そしてそれを隠し上辺だけの応援をする、勇気のない自分を嫌悪した。
結果、交際を始めた二人に今まで通り接しながらも、心の中で「もし自分が先に告白していたら」などと意味のない妄想と後悔の日々を過ごした大学生活。
だけどそれももう5年以上前の話。今日は幸せな二人を心から祝福できると思っていたのに……。
「私、そんなに上手く笑えていなかった?」
大学時代ずっと秘めていた、とっくに終わったと思っていた恭一への想いは、慎司にいとも容易く暴かれてしまったらしい。
被せられたタオルが俯く顔を隠してくれていて、ちょうどよかった。きっと今、生まれて一番酷い顔をしている。
「ちゃんと笑ってたよ、見ているこっちが苦しくなるくらいのいい笑顔だった」
頭が慎司の胸に抱えられた。間にモコモコのタオルがあるせいか恥ずかしさも半減して、そのまま体重を預けてしまう。慎司は子どもにするように、背中をぽん、ぽん、とゆっくり優しく叩く。そのリズムがやけに心地好い。
「じゃあ、なんで気づいちゃったのよ」
放っておいてくれればよかったのに。半ば八つ当たりの言葉を零すと、彼の手が止まった。
「ずっと見てたから。今日だけじゃない。大学の時からずっと、恭一を見ている薫を見てた」
「……なにそれ。そんなのまるで」
「そうだよ。年甲斐もなく告白なんてしてんの、俺」
背中に回された腕に力が込もり、抱き竦められてしまう。慎司の、懐かしいような、でも知らない人のような香りと温度に包まれた。
彼らに誘われるがまま私たちは映画鑑賞サークルに引き込まれ、大学ではもちろん、鑑賞会と称した飲み会などでもよく一緒にいた。そんな中で当たり前のように、私は明るく気配り上手な恭一に惹かれていく。
皆でいる時でも、私の目は無意識に恭一を追っていた。だから小百合の視線もまた、同じく彼に向いている事に気づくのもすぐだった。
あまりにも早く知ってしまったせいで小百合に自分の恋心を打ち明けられず、友情と恋情の狭間で揺れる想いを持て余していたある日。「恭一君に告白しようと思う」と恥ずかしそうに顔を朱く染める小百合に相談を受けたのだ。
この時ほど、自分の中にある負の気持ちを自覚した事はない。小百合は何も悪くないとわかっているのに、自分の気持ちに正直な彼女に嫉妬する。そしてそれを隠し上辺だけの応援をする、勇気のない自分を嫌悪した。
結果、交際を始めた二人に今まで通り接しながらも、心の中で「もし自分が先に告白していたら」などと意味のない妄想と後悔の日々を過ごした大学生活。
だけどそれももう5年以上前の話。今日は幸せな二人を心から祝福できると思っていたのに……。
「私、そんなに上手く笑えていなかった?」
大学時代ずっと秘めていた、とっくに終わったと思っていた恭一への想いは、慎司にいとも容易く暴かれてしまったらしい。
被せられたタオルが俯く顔を隠してくれていて、ちょうどよかった。きっと今、生まれて一番酷い顔をしている。
「ちゃんと笑ってたよ、見ているこっちが苦しくなるくらいのいい笑顔だった」
頭が慎司の胸に抱えられた。間にモコモコのタオルがあるせいか恥ずかしさも半減して、そのまま体重を預けてしまう。慎司は子どもにするように、背中をぽん、ぽん、とゆっくり優しく叩く。そのリズムがやけに心地好い。
「じゃあ、なんで気づいちゃったのよ」
放っておいてくれればよかったのに。半ば八つ当たりの言葉を零すと、彼の手が止まった。
「ずっと見てたから。今日だけじゃない。大学の時からずっと、恭一を見ている薫を見てた」
「……なにそれ。そんなのまるで」
「そうだよ。年甲斐もなく告白なんてしてんの、俺」
背中に回された腕に力が込もり、抱き竦められてしまう。慎司の、懐かしいような、でも知らない人のような香りと温度に包まれた。