近すぎて


携帯を届けたい。ただそれだけなのに、電話の向こうの人物は不審感丸出しだった。
こっちは偶然拾った携帯電話が鳴ったから出ただけ。そう伝えると、相手は人通りの多い大学の校門脇を指定してきた。

俺たちってどれだけ警戒されているんだ?

軽口を叩きながら恭一と向かうと、それらしき女子二人組が立っていた。
その片方――薫が、小百合を背に庇うように前に進み出る。

「ありがとうございます。でも、メールとか写真とか、中を見たりしてませんよね?」

「はあ?おいっ!」

礼もそこそこに失礼なことを言いだした薫にむかっ腹を立てた俺を恭一が制し、穏やかな口調で、だがキッパリと否定した。

「まさか。そんなことしてないよ。でも今度からは、ちゃんとロックしておいた方がいいかもね」

携帯を薫に渡して立ち去ろうとした俺たちを、小百合が引き止める。

「あ、あの!なにかお礼を……」

その手の中に携帯が握られているのを見て、あれは彼女の物だったのかとそこで初めて知った。その斜め後ろで、相変わらず険しい顔をしている薫。

「いいよ、別に。ただ拾っただけだし」

「でも……」

恭一と小百合は何度か不毛なやりとりを繰り返していて、それを俺と薫は止めるでもなく眺めていた。

「じゃあさ。ウチのサークルに入ってよ」

「えっ!?」

「掛け持ちでも、名前だけでも構わないから。とりあえず、部室に見学に来てみて」

活動場所と時間を伝え、「待ってるから」と恭一は歩き出してしまう。それを追いかけつつ振り返ってみれば、さらに表情を険しくした薫と目が合った。

あれは、絶対に来ないな。

そうした俺の予想に反し、数日後に部室で二人の姿を見つけた時は本当に驚いた。

初めのうちはあからさまだった薫の警戒心も、人当たりがいいくせに強引なところもある恭一が徐々に解いていく。

だから、当然といえば当然だったのかもしれない。いつしか彼女の目には、親友しか映らないようになったとしても。
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