不器用な彼氏 ~彼女に出会う前のお話~
恋愛不適合男
鳴り響く携帯の音に、海成(かいせい)は、仮眠を取っていた会議室の簡易ソファで目を覚ます。

5月の半ばを過ぎた月曜日の朝。
昨日は、久しぶりの休日だったが、クレーム対応の為に呼び出され、ついでにやり残した仕事を片付けて、結局そのまま徹夜してしまった。
起きたての疲れた身体で、本当ならば、たばこの1本でも吸いたいところだが、先ずは、先程からずっと鳴り響く携帯を手に取る。相手は確認しなくても、おおよその検討はついていた。
ディスプレイの名前を一瞥して、軽く舌打ちをしてから、電話にでる。

『やっと出た!』

こちらがまだ何も言葉を発していない前に、開口一番、怒りを含んだ甲高い声が、飛び込んできた。

『ちょっと!なんで連絡くれなかったのよ!』

キンキン声が響き、耳に近づけていた携帯電話を、少しだけ離す。

『何なんだよ。朝からうるせぇな』
『彼女に向かって、うるさいってどういうことよ!?』

怒りを露わに、物凄い勢いで、喚く。
電話の相手は、ちょうどひと月ほど前に知り合った女で、男に振られて傷心だとかでやたらと積極的に迫られ、その日のうちに流れで関係を持ち、結局それをきっかけに、付き合い始めた。
年齢は確かまだ20代半ばのはず。見た目もスタイルも申し分ない女だが、とにかくやかましい上に、空気が読めない。
海成は、相手に気づかれない程度に、ため息を付く。
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