不器用な彼氏 ~彼女に出会う前のお話~
『東の知り合いだっけ?』
『はい、前に同じ支店で働いたことがあって』
『歳は?』
『俺の2コ上なんで、進藤さんと一緒になりますね・・・って気になります?』

東が面白がって聞いてきたのが気に入らず、ジロリと睨み返すと『冗談ですよ』と、返される。

”同じ歳の女か・・・やりずれぇな”

職場の女には全く興味がないが、どちらにしても、このTMに志願するくらいだから、相当のやり手に違いないのだろう。
幸い、東がトレーナーを引き受けてくれたおかげで、海成はノータッチを決め込むつもりでいた。

『どうでもいいが、他のTMの足を引っ張らないように、しっかり教育しろ』

持っていた、缶コーヒーを一気に半分ほど飲み干し、執務室とは逆方向に向かう。

『あれ?進藤さん、もう始業時間ですよ?』
『俺は帰る。古賀主任に、そう伝えておいてくれ』

そういうと、後ろは振り向かずに右手だけ軽く上げ、立ち去る。昨日から、肉体的にも精神的にも疲労がピークに達していて、今日はまともに業務が出来そうにない。
とりあえず、昨日から着ている作業用の制服を着替えるため、更衣室に向かう。

執務室からまっすぐの通路の突き当りを右に曲がると、曲がってすぐ、自分の肩より少し低い女性とすれ違う。
すれ違いざま『おはようございます』と声をかけられたが、とっさのことで返事を返す間もなく、振り返ると、既に通路を曲がった後だった。
通りすぎた瞬間、ふわりと花の香りがしたような気がしたが、気のせいだろうか。見慣れない女で、少なくともこの支店にいる女性ではなさそうだ。

”まさか、今の女が新しいTMなわけ無いよな”

ほんの一瞬だったので、よく見えなかったが、何だかぽわんとした女で、どう見てもバリバリに仕事が出来そうには、見えなかった。

もう半分の中身を飲み干し、空缶を利き手で軽く圧力を加えると、いとも簡単にへし折れる。

"女はつくづく面倒くせぇ"

深いため息と共に、分別用のごみ箱へ投げ入れた。



Fin →本編へ続く…

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