世界で1番愛してる。

クリスマスのイルミネーションが街を包み込む。

今朝のニュースでは、東京の街には初雪が降るとのことだ。

お台場という海に面した陸地にそびえ立つホテル本航。

香山えりはパリ連想させるようなホテルのロビーで一人の男を待っていた。

えりの背よりも何倍も高いクリスマスツリーにこれでもかというほど、贅沢に使われたオーナメント。

このホテルのアピールポイントらしいそれを、訪れる人々が感嘆の声を上げながら写真を撮っている。

螺旋状になっている階段から、目的の人物が降りてくるのを見つけてえりの表情はほころんだ。

「大にいちゃん!」

「えり。久しぶり」

柔らかい笑顔で微笑むのは、幼馴染の岩口大樹。

世界で一番大好きな人。

シカゴに滞在している大樹が日本に用事があるとのことで久々に再会しようということになった。

十歳も離れた幼馴染は、えりの姿を見つけると柔らかい表情で彼女を捉える。

昔から、大樹のこの表情が好きだった。

「悪いね、ここまで来てもらって。行こうか」

予約したレストランに大樹はえりを連れて行く。

ドギマギしながら、彼女は彼について行った。

今日、えりは大樹に最後の告白をする。

幼い頃から何度も告白をしてきたが、何度もフラれてきた。

アラサー手前。

彼氏が出来ても大樹のことが好きでうまくいかず、婚活を頑張るもピンとこない。

友人達からは、行き遅れるよとの言葉にそういう問題なのかと思いつつ、彼に対する気持ちがどんどん彼女の人生を蝕んでいくような感覚だった。

何度も告白しても、振られてきた。

彼の決まり文句は、必ずこうだ。

「えりにはもっと相応しい人がいるから。もっと色んな人を見た方がいい」

忘れなくてはいけない。

でも忘れたくない。

三十近くになってまで、この人が一番好きなんだと思ってしまう自分は、本当にしつこいなと嫌気がさすほどだ。

これまた、大樹が独身なのだから尚更諦めがつかない。

どうすれば良いのか散々悩んだ末、もう一度だけ告白をして受け入れてもらえなければ、諦めよう。

そう決めた。

大樹の人生を追いかけ続ける訳にもいかない。

彼は、えりの気持ちを知っている。

知っていて、優しい大樹は傷つけないように気を使ってくれているのだ。

十二歳の時、十五歳の時、二十歳の時、二十五歳の時と彼はえりに気持ちがないことをはっきりと伝えている。

それにも関わらず諦められないえりがいけないのだ。

だから、今夜で最後にする。

夜景の見えるレストランで「えりは飲み物何にする?」と柔らかい笑顔で言う大樹に胸を締め付けられながら、えりは決意を固めていた。
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