世界で1番愛してる。
彼女は知らない。
屈託ない笑顔でいつも自分を好きだと言ってくれるけれど、十七年前犯された罪を知れば失望するに違いない。
アメリカから日本に帰国した理由も、その罪を告白するためだった。
赤ん坊の頃から知っている。
家族ぐるみで仲が良かったので、自然と面倒を見ることが多くなった。
学校から帰ると必ず家に来ていた。
「大にいちゃん!宿題教えて!」
ピンク色のランドセルを背負って、息を切らして学校から一目散に駆けてくるえりが可愛くて、どうしようもなくて自分が大人になっていけばいくほど十年という年の差を憎むようになった。
大人になってしまえば大した差ではなくても、成長過程を共に過ごしている身からすれば拷問のような距離だ。
大学生と小学生。
許されるはずがない。
変態と言われても仕方がない。
だからあの日、えりが十二歳の時、宿題を終えて、疲れ切った彼女がうたた寝してしまった瞬間、彼女の唇を奪ってしまったこと。
その瞬間、自分自身が彼女にそれ以上のことを求めていることに気がついた。
混乱と罪の意識から、彼女を遠ざけようと決心した。
それから十七年といい兄を演じてきている。
彼女が成熟した大人だと知っていても、背負った十字架を外すには時間が経ち過ぎていた。
彼女が二十歳になった時、彼氏が出来たと聞いて、しばらく部屋から出られなかった。
だから、海外勤務の話が来た時に逃げるように承諾した。
弱くて、どうしようもない人間だということは知っている。
アメリカで季節が過ぎる度に、日本にいる彼女の幸せを願っては相手の男に嫉妬する日々を過ごした。
「大にいちゃんは何も変わらないね」
運ばれてきた前菜を口に含みながら、えりが笑うのを見てどうしようもなく切なくなる。
テーブルの上に飾られたキャンドルが柔らかく揺れた。
この子を手放したくない。
「そうかな?えりは雰囲気変わったね。仕事はネイリストだっけ?」
「うん。最近は芸能人の人も少し担当してるんだよ」
ほら見て〜。と彼女の爪が差し出される。
綺麗に整えられた爪には桜貝のような淡い色が施されていた。
彼女によく似合う色だ。
「すごいね。さすが、えり」
「大にいちゃんはシカゴはどう?」
えりのいない日々は寂しいし、切ないよ。
「うーん。まあまあかな?」
「すごいのは大にいちゃんだよ。海外勤務なんてかっこいいな」
「そんなの英語さえ喋れれば誰でもできるよ」
違う。
言いたいことは、そんなことではない。
拒絶しておいて、今更伝えられる訳もない。
家族のような延長で今日彼女は自分に会いに来たに過ぎないのだ。
まずは謝らなくてはならない。
今日、俺はえりに最初の告白をする。