世界で1番愛してる。
ディナーの時間が終わる。
行儀の良いウェイターがかしこまったように頭を下げて、大樹が当たり前のように料金を払ってくれた。
「私だって働いているんだから、出すよ」
と財布を出すと「後で、コーヒーご馳走してくれないかな?」と相変わらず優しい。
ホテルの近くにあるコーヒーショップで食事代に遠く及ばない値段のカフェラテを購入して彼に渡す。
甘党なのは、変わらない。
曇った空が海を隔てて東京の街を、柔らかくつつみこんでいる。
レインボーブリッジが七色に輝き、その向こうにある東京タワーがクリスマス仕様になっているのを発見してえりは「見てみて!」とわざとらしくはしゃいだ。
「えりは好きだよね。そういうの昔から」
「クリスマスくらいはしゃいだっていいじゃん」
「変わらないのはいいことだと思うけどね……」
「……」
それって、関係もこのままがいいってことのなのかな。
ネガティブな感情がえりの中によぎった。
もう何度も失恋している。
今夜、うまくいく保証なんてどこにもない。
優しいのは、家族のような関係だから。
「えり、あのさ……」
お開きにしよう。
そう言われるのが怖くて「ねえ、大にいちゃんの部屋に行ってみたい!このホテルに泊まってるんだよね?久々に会ったんだしもう少し語ろう」と遮った。
「部屋?」
「うん。ここのホテル憧れてたんだけど、来る機会ってなかなかないじゃない?」
「ダメだよ、えり」
何かを諦めたような表情で、大樹は言った。
「……」
「……」
沈黙が続く。表情が強張ったのが自分でも分かった。そんなえりの変化に気が付いたのか「……彼氏に失礼だろう」
と言い訳のように付け加えられた言葉に、やっぱり気持ちは届かないのだと涙が溢れそうだ。
「いないよ。そんな人」
「え……」
「大にいちゃん。好き。本当に好き。私、やっぱり諦められないよ……」
最後でもいい。
エゴかもしれないけれど、やっぱり気持ちを伝えたい。
「……」
「大にいちゃんが、私を好きじゃないのは知ってる」
「違うよ。えり」
大樹にしては厳しく強い口調でえりの言葉を遮った。
「……」
「俺の話を聞いてくれる?」
呆気に取られているえりに大樹は真剣な表情で言った。