世界で1番愛してる。
「大にいちゃんが、私を好きじゃないのは知ってる」
えりの口から、この言葉が出てきた瞬間、思わず強い口調で遮っていた。
もう四十になるというのに、どうしてこの子の前では自制が効かないのだろう。
立派に大人の女として、綺麗になったえり。
幼い頃の面影は残るものの、もう宿題を聞いてくる妹のような存在ではない。
「えり、あのさ。言わなくちゃいけないことがあるんだ」
「……」
不安気な表情で自分を見る彼女に、大樹は一気に十七年前の出来事を告げた。
「えり、俺はえりが思っているような人間じゃないんだよ」
何度も彼女の気持ちを聞いていたのに、それに甘んじて逃げてきた。
狡くて、小心者で、罪を告げる勇気もない。
それなのに君を手放すことも出来ない。
それでも好きだと言って欲しいなんて、おこがましいにも程がある。
「大にいちゃん」
「……」
「バカ!本当バカ!」
潤んだ瞳で責められると、どうしようもなく情けない気持ちになった。
「ごめんね。えり」
許されるはずもない。
許してもらえるかもしれないと一瞬でも思った自分がいけないのだ。
「なんで、もっと早く言ってくれなかったの?」
「……?」
「私、アラサーだよ?」
「……ご、ごめん?」
「よかった。ずっと、嫌われてるんだと思ってた……」
泣きそうな表情で笑うえりを見て、思わず抱きしめた。
「許してくれるの?」
「許すも何も、本望だよ」
予想外の回答が返ってくるので、思わず大樹は吹き出す。
そうだ。この子はいつも予想外な行動で俺を幸せにしてくれる子だったんだ。
だから、好きになった。
「本望なんだ」
「笑い事じゃないよ。こんなに時間かけるなんて、不器用すぎるよ」
笑っている大樹に、えりは眉をひそめる。
「確かに、俺に至ってはアラフォーだもんな」
十何年付き合わせたのだろう。
こんなバカに付き合ってくれた彼女を今度は手放してはいけない。
「……もうフラないでね」
「うん。結婚して一緒にアメリカに帰ろうか」
「唐突」
「でもえり来るでしょ?」
「じゃあ、キスしてくれたらいいよ」
「ここで?」
「十七年前はしたんでしょ?」
イタズラっぽい表情で言う彼女に、大樹は優しく柔らかく口付けた。