ラヴァニアの魔法
_______あれから五年が経った。


街の中心にある王立研究所には理系の研究室が集まる東棟と文系の西棟がある。
私はそれらを繋ぐ回廊から、手すりにもたれて街を一望するのが好きだった。

王宮からは貴族の邸宅や、街の時計塔なんかしか見えなかったが、ここからは街の中身がよく見える。

街では今何が流行っているのか、街の人は何を食べてどんな物を見ているのか。

「おー、フィアじゃん」

手に分厚い書籍を沢山抱えた青年が声を掛けてきた。
彼はここの科学研究者で、唯一私と歳が近い。
普段は研究室がある東棟にいるのだが、今日は私たち文系の研究者がいる西棟図書館へ用事があったらしい。

「光の研究だっけ」

私が生まれる少し前、この国が戦争をしていた頃は、彼の研究室では化学兵器を扱っていたらしい。しかし、今ではそれを改良して国の利益になるものを生み出そうとしている。

「そそ。火でもっと綺麗なもの作りたくて。出来たら、また見に来てよ」

もちろん。と答えると、にっと笑って私の腹を優しくコツン突いてきた。

ハルキは何かを発明するといつも無邪気な子供のように私に説明してくれる。私はこの瞬間が微かな楽しみでもあった。

昔、彼の親は戦争で亡くなられたそうだ。彼にとって本当ならそのことを一番に伝えたいのは親なのかもしれない。

「でも私、科学とか全然分かんないからさ、凄いな〜っていつも思うよ」

私がそういうと、間髪入れずにハルキは言葉を返した。

「いやいや、フィアのやってる政治とかって国の為だし。そんな重たいことオレ全くだから。…かっこいいってば」

ハルキは王宮で知り合った誰とも、違う雰囲気を持っている。
好きなことを続け、怠けるわけではなく努力する姿勢。そして腰の低い態度。

「今は外交を勉強してるんだっけ」

そうそう、と頷く私。

「国によっては宗教も文化も違うんだよね」

だから価値観の違いから対立が生まれたりする。私がそう言うと、マジかと目をパチクリさせるハルキだったが、しばらくして納得した顔をした。

「知れば知るほど実際に見てみたくなっちゃうんだよね」

視線を街へ戻す。
私は王族だから、研究室に出入りしていると言っても、かなり自由は制限されている。だから街へは滅多な機会がないと行けない。

そして視線を研究所の中庭へ落とすと、何やら知っている人物がこちらを見て、手で合図を送っていた。

それに気付いたハルキが焦った声を出す。

「ヤバ、下で教授待たせたんだった。ごめん、また!」

そう言うと、風のように去って言った彼。

同じ学問をしているわけではないが、彼との会話は私にとって新鮮で。

勿論学ぶことは沢山あるのだが、五年前王立研究所へ来て本当に良かったと思える要因の一つである。
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