ステイトリー・ホテルで会いましょう
「ブラジルでやりたいことを五年で片づけてきた。あとは日本でもできる。いや、そうじゃない」

柊は大きく息をついた。

「あとは結麻のそばでできる仕事をする。だから」

柊がスーツのポケットに手を入れて、ベルベットの小箱を取り出した。

「柊」

私の視界が涙でにじむ。

「俺と結婚してください」

柊が蓋を開けた。プラチナの指輪に抱かれたダイヤモンドが、涙でキラキラまぶしく光る。

「……はい……」

どうにか返事をした。柊は指輪を取って箱をポケットに入れ、おもむろに私の左手を持って薬指にそっとはめる。

「五年、待たせてごめん。五年、待っててくれてありがとう」

私は嬉しくて胸が震えて、ただ頷いた。

「カクテルで一緒に乾杯したら、部屋へ行こうか」

柊が言った。

「あー……でも、五年前と同じ部屋は取れなかったんだ」

私の言葉を聞いて、柊が怪訝そうな顔をする。

「え? 同じ部屋は予約できたよ」
「え?」

私はぱちくりと瞬きをした。柊も同じように瞬きをする。
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