ステイトリー・ホテルで会いましょう
そうして二十歳の誕生日を迎える前日、「彼氏ができないまま十代が終わるなんて嫌だな」と私が言うと、柊は「じゃあ、俺と付き合おう」と言った。そうして付き合い始めた私たちは、手をつないだのも、初めてキスをしたのもそれからずいぶんあとだった。でも、ゆっくり関係を進めた分、お互いへの気持ちを大切に大切に温めた。

そんな私たちは、周囲から見れば不思議なカップルだったかもしれない。学生食堂や校舎の木陰で並んで座り、柊は動物の専門書を、私はミステリを読みふけっていたのだから。

でも、お互い共通点が少ないからこそ相手に興味を持った。知らないことを知るのが好きだったから、相手の話を聞くのが楽しかった。そうして五年間付き合ってきたけれど……。

五年前、つまり二十五歳のとき、柊はお世話になった教授に、研究者としてブラジルの大学へ行かないか、と誘われた。その話を彼が私にしたのは、まさにこのホテルの隣の部屋だった。

当時の私は、こんなステキなホテルを予約してくれたなんて、と嬉しくて、ずっとドキドキワクワクしていた。でも、食事のあとバーに寄って部屋に入ったとき、柊の顔に笑みはなかった。
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