ステイトリー・ホテルで会いましょう
「どうしたの?」

心配して訊いた私に、彼はブラジル行きの話をした。

「ブラジルだよ。いくらなんでも遠すぎるよな」

柊は、あはは、と声を出してみせたが、顔はぜんぜん笑っていなかった。

「ブラジルに行ったらどんな研究をするの?」

私が訊くと、柊の目に光が灯った。

「デンキウナギとかヤドクガエルなら結麻も知ってるかな?」
「うん、水族館で見たことある」
「ほかにもキンカジューとかタチヨタカとか、珍しい動物がたくさんいるんだ。でも、熱帯雨林が開発されて生態系が変わってしまって、今の個体数はどうなのか、どんな影響が出てるのか、そういうのを調査する予定なんだ。珍しいからこそペット用に乱獲されたりして数も減ってるし、このままにしておけない」

そう話す柊の声には熱がこもっていた。行きたいんだなってすぐにわかった。

「じゃあ、行ってきたら?」

私が言うと、柊が驚いたように瞬きをした。

「結麻は……寂しくないのか?」
「そりゃ……寂しいけど」

柊がゴクンと唾を飲み込んで言う。

「じゃあ、ついて来てって言ったら……一緒にブラジルに来てくれる?」
「ごめん」

私が即答したので、柊は目を見開いた。
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