ステイトリー・ホテルで会いましょう
「私……先週、翻訳学校の先生から連絡があって、ミステリ小説の下訳を頼まれたんだ。有名な作家の本を何冊も翻訳している先生で、先生の下で訳せるなんてすごく勉強になるし、絶対にやりたい。っていうか、ぜひやらせてくださいってもう返事しちゃったんだ」

それが私の夢だとわかっていて、柊は「そっか」とつぶやいた。

「私が行かないでって言ったら、柊は困るでしょ?」

私の問いかけに、柊は苦しそうな表情になる。

「私のために柊が夢を諦めるのは嫌だし、私だけ夢を叶えるなんてもっと嫌。夢を叶えるなら二人とも叶えなくちゃ」
「でもそれは、それぞれ別の夢だってことだよな」
「うん」

二人がそれぞれの夢を取るなら、叶わなくなる夢がある。ずっと二人で一緒にいたい。それも私の夢。でも、それは私だけが夢見ているものなのかもしれない。

だから、それは言葉にしちゃダメ。

「たくさん話をしたよね。だから、柊の夢への思いはわかってるつもり。だから」

続きを言おうとしたら目に熱いものが込み上げてきた。それをこらえて笑みを作る。

「私は柊の夢を応援したい」
「俺も……結麻の夢を応援したい」
「だから、今日で終わりにしよう」
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